私は、彼女と一緒に歩いている時、他人の目が気になっていた。
手をつないで歩く。
飲食店に入る。
店員さんが料理を運んでくる。
見知らぬ人とすれ違う。
そのたびに、私は心の中でこう思っていた。
「見ないでほしい。」
なぜ、そんなことを思ったのだろう。
今振り返ると、私は彼女を見られるのが嫌だったのではない。
彼女と一緒にいる自分を見られるのが嫌だったのだと思う。
最初から違和感はあった
彼女と初めて会った瞬間、私は違和感を覚えていた。
写真で見た印象とは違っていた。
髪の乱れ。
服装。
清潔感。
疲れた表情。
そこには、男性に会うために整えてきた女性というより、日常から逃げるように外へ出てきた人の生活感があった。
私は、その時点で少し引いていた。
でも、帰らなかった。
せっかく会えた。
女性と過ごせる。
セックスできるかもしれない。
そういう期待が、私の本音を押し込めてしまった。
彼女は私に「帰りたくない」「もっと一緒に居たい」と言った。
最初は、求められているようで嬉しかった。
男として選ばれたような気がした。
でも、一緒に過ごすうちに分かってきた。
彼女が求めていたのは、私という人間そのものではなかったのかもしれない。
家に帰りたくない。
娘との関係がつらい。
現実から逃げたい。
誰かのそばにいたい。
彼女は恋人を探していたというより、避難場所を探していたのだと思う。
そして私は、その避難場所として選ばれた。
それでも私は、その役割を受け入れようとしていた。
なぜなら、私自身も「女性に必要とされている」という感覚に酔っていたからだ。
ホテルでは平気だったのに、外へ出ると苦しかった
ホテルの中では、まだごまかせた。
二人きりだったからだ。
誰にも見られない。
誰にも評価されない。
そこでは、彼女と私だけの閉じた空間だった。
しかし外へ出ると、現実が戻ってきた。
手をつないで歩けば、私たちは恋人同士に見える。
飲食店に入れば、周囲からは男女の二人連れに見える。
店員さんが私を見て、次に彼女を見る。
ただそれだけのことなのに、私は勝手にこう感じていた。
「この人の恋人は、こういう女性なんだと思われた。」
もちろん、店員さんが本当にそんなことを考えていたかは分からない。
通行人も、私たちのことなど何も見ていなかったかもしれない。
みんな、自分のことで忙しい。
それなのに私は、他人の視線を必要以上に意識していた。
私は恋人のふりをしていた
なぜ、他人の目が気になったのか。
それは、私自身がこの関係を受け入れられていなかったからだと思う。
私は彼女を恋人として選んでいなかった。
心から「この人と一緒に歩きたい」と思っていなかった。
「この人が私の大切な人です」と胸を張って言える相手ではなかった。
それなのに、外から見ると私たちは恋人のように見える。
そのズレが苦しかった。
私は、他人の目を気にしていたのではない。
他人の目を通して、自分の嘘を見せつけられていたのだ。
彼女と手をつないで歩くたびに、私は恋人のふりをしている自分を見ていた。
彼女と食事をするたびに、自分で選んだはずなのに選び切れていない関係を見ていた。
そして、その姿を他人に見られることが怖かった。
本当は、他人が私を裁いていたのではない。
私自身が、自分を裁いていた。
「お前は本当にこの人を好きなのか。」
「この関係を望んでいるのか。」
「セックスのために、自分の気持ちを無視しているだけではないのか。」
そんな問いが、他人の視線を借りて私に突き刺さっていた。
私が本当に恐れていたもの
私は、自分は外見にこだわらない人間だと思っていた。
自分を好きでいてくれる女性なら、好きになれると思っていた。
でも違った。
私は、女性の外見も見ていた。
清潔感も見ていた。
そして何より、一緒にいる自分を誇れるかどうかを見ていた。
それを認めるのは苦しかった。
自分が浅い人間のように思えたからだ。
でも、今回の出来事で分かった。
外見を大切にすること自体が悪いのではない。
清潔感を求めることも悪いことではない。
一緒に歩きたいと思える相手を求めることも、自然なことだと思う。
問題だったのは、そこではなかった。
本当は違和感を覚えていたのに、それを無視したこと。
恋人として見ていなかったのに、恋人のように振る舞ったこと。
セックスできればいいと、自分の心を後回しにしたこと。
そこに無理があった。
だから私は、外へ出るたびに苦しくなった。
他人の目が気になったのは、他人が怖かったからではない。
自分の本音をごまかしていることを、自分自身が知っていたからだ。
私は彼女を傷つけたくなかった。
だから笑顔を返した。
手もつないだ。
一緒に食事もした。
でも、そのやさしさは本当のやさしさだったのだろうか。
今は少し違うと思っている。
彼女を傷つけないようにしていたつもりで、私は自分自身を傷つけていた。
そして、自分を傷つけながら関係を続けることは、結局、相手に対しても誠実ではなかった。
他人の目は、私の本音を映す鏡だった
私は今回、自分の中にある見栄も、プライドも、承認欲求も見た。
一緒にいる女性によって、自分の価値まで判断されるような気がしていた。
「この程度の女性しか選べない男」
そう思われることを恐れていたのかもしれない。
でも本当は、誰よりもそう思っていたのは私自身だった。
私は、理想の自分から見た自分を許せなかったのだ。
もっと自然に女性と笑い合いたかった。
もっと胸を張って隣を歩きたかった。
「この人が私の大切な人です」と言える相手と一緒にいたかった。
それなのに現実の私は、セックスへの期待だけで違和感を飲み込み、恋人のような時間を過ごしていた。
その現実が、たまらなく恥ずかしかった。
だから他人の目が気になった。
他人の目は、私の本音を映す鏡だった。
私は彼女を見られたくなかったのではない。
自分の嘘を見られたくなかった。
今回の出来事で、私は一つ学んだ。
恋愛は、努力して自分に言い聞かせるものではない。
「この人を好きにならなければ」と思って作るものでもない。
自然に手をつなぎたい。
一緒に歩きたい。
誰かに見られても恥ずかしくない。
むしろ、この人と一緒にいる自分を嬉しく思える。
そういう気持ちがなければ、恋人のような関係は続かないのだと思う。
私は、自分に嘘をついていた。
そして、その嘘に最初に気付かせてくれたのが、他人の目だった。
本当に私を見ていたのは、通行人でも店員さんでもなかった。
私自身だった。
私は、彼女と一緒にいる自分を見ていた。
そして、その自分を受け入れられなかった。
なぜ私は他人の目が気になったのか。
その答えは、ようやく分かった。
私は他人に見られることが怖かったのではない。
自分の本音から目をそらしている自分を、これ以上見たくなかったのだ。


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