彼女と目が合うたびに、私は笑顔を見せていた。
自然な笑顔だったと思う。
少なくとも彼女には、そう見えていたはずだ。
でも今思うと、私は彼女に笑いかけていたのではなかった。
私は、「好きな女性と一緒にいる自分」を演じていた。
つまり、彼女とデートをしていたのではない。
好きな女性とデートをした時の理想の自分を、彼女の前で演じていただけだった。
私は彼女と手をつないで歩くことが苦しかった。
飲食店へ入ることも苦しかった。
人目に触れる場所へ行くことも苦しかった。
なぜなら、私は彼女を恋人として好きになれなかったからだ。
出会い系サイトで知り合ったこともあり、私が彼女に求めていたのはセックスだった。
だから、人前で恋人のように振る舞うことに強い違和感があった。
人として最低だと思う。
それでも私は、その感情を彼女に見せることはなかった。
目が合えば笑う。
手をつないで歩く。
楽しそうに話をする。
彼女に嫌な思いをさせたくなかったからだ。
でも、それだけではなかった。
もし私が笑わなかったら。
もし私が楽しそうな表情をしなかったら。
彼女はきっと「どうしたの?」「何かあったの?」と聞いてきただろう。
そう聞かれたら、私は何と答えればよかったのだろう。
「恋人として好きになれない。」
「セックスだけを考えていた。」
「一緒に歩くのはつらい。」
そんなことは口が裂けても言えなかった。
だから私は笑った。
本心を隠すために。
気まずい空気を作らないために。
その場を壊さないために。
今思えば、笑顔だけが私に残された唯一の答えだったのかもしれない。
実際、彼女と初めて焼き鳥を食べた時、私はほとんど会話ができなかった。
カウンターで隣に座っていた彼女が、少しだけ私との距離を取ったように感じたことを今でも覚えている。
もちろん、本当にそうだったのかは分からない。
私の思い込みだったのかもしれない。
でも私は、「気まずい空気になってしまった」と感じていた。
だから、その後は目が合うたびに笑った。
彼女を安心させるためでもあり、自分自身を安心させるためでもあった。
私はなぜ、本心を言えなかったのだろう。
一番の理由は、本当のことを言えば彼女との関係が終わり、セックスもできなくなると思ったからだ。
私はセックスを失いたくなかった。
だから、自分の気持ちを押し殺した。
本心を隠したまま彼女との時間を過ごせば、この関係は続くと思っていた。
もう一つ理由がある。
いくら私が恋人として好きになれなかったとしても、
「恋人として好きになれない。」
「セックスだけを考えていた。」
「一緒に歩くのはつらい。」
そんな言葉を彼女に向けることはできなかった。
その言葉がどれほど人を傷つけるのか、想像できたからだ。
だから私は笑った。
彼女を傷つけないために。
そして、自分の本心を見ないために。
一か月後、私は自分から彼女に連絡をした。
セックスをしたかったからだ。
その時の私は、自分の気持ちをもう一度押し殺せば大丈夫だと思っていた。
笑顔を見せて。
恋人らしく振る舞って。
彼女に興味があるように質問をして。
そうすれば、またセックスができると思っていた。
でも今振り返ると、それは彼女を見ていたのではなかった。
私は、自分が思い描く理想の恋愛を演じ続けようとしていただけだった。
彼女に笑いかけていたのではない。
「好きな女性とデートをしている自分」に笑いかけていたのだ。
そこにいたのは彼女ではなかった。
私の頭の中にある理想の恋愛だった。
だから私は、自分を騙し続けることができなかった。
どれだけ笑顔を見せても。
どれだけ恋人らしく振る舞っても。
目の前にいる彼女を見るたびに、
「私はこの人を恋人として好きではない。」
という本心だけは消えてくれなかった。
私は笑顔を作っていたのではない。
理想の恋愛をしていると思い込みたかっただけだった。
本心を隠しながら、恋人らしい自分を演じていただけだった。
あの出来事で終わったのは、彼女との関係だけではない。
自分の気持ちに嘘をつきながら恋愛を続けようとする生き方も、私は終わらせようと思った。
本当に笑顔になれる相手とは、演じなくても自然と笑える人なのだと思う。
人との出会いは、自分でも気付いていなかった感情を教えてくれることがあります。
私自身、この出来事があったからこそ、「笑顔の裏で自分に嘘をついていた」という事実に気付きました。
新しい出会いは、恋人を見つけるためだけではありません。
自分という人間を知るきっかけになることもあります。
[PR]人との出会いは、人生を上書きすることがあります。

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