「謹んで、お断り申し上げます」
私の「実録」の中で、これほどまでに苦々しく、そして虚無に近い爪跡を残した女はいない。それが「かおり」という人妻だった。
聖域の汚染、あるいは空虚な器:人妻「かおり」との邂逅
出会いは、あるオンラインゲームを媒介とした出会い系サイト。当時の私は、日常の隙間を埋めるセフレを探す程度の、軽い不敬の念を抱いていたに過ぎない。ゲームという仮想空間で共に遊べる人妻。その肩書きに、私はある種の幸運さえ感じていたのだ。
LINEでのやり取りを経て、仮想空間で共に過ごしたのは、わずか二日間。だが、三日目には私の本能が動いた。
「かおりさんと、一つに繋がり合いたい」
今思えば、あまりに直接的で、情緒を欠いた誘い文句だった。だが、彼女はそれを拒まなかった。それどころか、驚くべきスピード感で私の差し出した「毒」を飲み込み、密会の約束を交わしたのだ。
待ち合わせは、平日の朝9時。巨大なターミナル駅の改札。
周囲を見渡せば、今日一日の労働に身を投じるビジネスマンたちが、無機質な群れをなして通り過ぎていく。社会の歯車として機能する彼らを背に、私はこれから一人の人妻を「雌」へと堕とす儀式を始めようとしていた。
耳元で、彼女の声が滑るように響いた。
「やっほー!俺さんの後ろに、私がいるよ?振り返ってみて?」
その声は、ビジネスマンたちの足音が無機質に響く駅の喧騒を、一瞬で「密会の密室」へと塗り替える合図だった。振り返ると、そこには100人以上の男たちの視線を吸い込んできたであろう、底の知れない瞳が私を射抜いている。
いたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔。だが、その笑みの裏には、これから夫という聖域を汚し、私という「外毒」を全身で受け入れようとする、飢えた雌の顔が隠されていた。
振り返った私の視線の先で、彼女という「非日常」が、朝の光を歪ませながら立っていたのだ。
私たちは初対面でありながら、長年連れ添った夫婦のような平然とした面持ちで、肩を並べて歩き出した。ビジネス街の朝という、極めて「表側」の日常。
その真ん中で、これから不倫という「裏側」の深淵へ突き進もうとする男女の姿は、ひどくアンバランスで、それゆえに滑稽なほど美しかった。
だが、この時。私はまだ知らなかった。彼女が抱える「100人の男たちの残骸」と、夫という存在を徹底的に舐め腐った、底知れない「業」の深さを。
奪えない「器」:ゴム越しに伝わる微熱と拒絶
彼女との情事は、驚くほど記憶に薄い。それは、彼女の身体に刻むべき「熱」が、どこまでも滑り落ちていくような感覚だったからだろうか。
部屋に入ると、約束していたお菓子を彼女に手渡した。「嬉しい、家に帰って食べるね」――その笑顔は、夫が待つ「日常」に、私の痕跡を毒として持ち帰る共犯者の顔だった。
浴室で始まった、舌を絡ませ合う儀式。
40歳を超えたとは思えない、不気味なほどに張りのある肌と、キラキラと輝く少女のような瞳。だがその瞳は、私という個人を見ているのではなく、これから自分を「女」にしてくれる「刺激」だけを追い求めているようだった。
ベッドの上で、私たちは重なり合い、上下を入れ替える。
私は、彼女の深奥に自らの証(精液)を注ぎ込み、夫という存在を完全に排斥するつもりでいた。かつての「うた」や「みずき」のように、生身の粘膜で繋がり、記憶の最下層まで私という刻印を刻み込む――その機会を窺っていた。
だが、運命が一つに繋がろうとしたその刹那、彼女は冷徹に、しかし甘く囁いた。
「ゴムを付けてね」
その一言で、私の「簒奪」という野心は、薄いゴムの膜一枚によって無残に遮断された。彼女もまた、タイミングを見計らっていたのだ。それは貞操観念などではなく、100人以上の男を「安全に」処理し続けてきた、雌としての生存戦略だったのだろう。
私は失望を押し隠し、その「壁」を装着して彼女の膣内へと滑り込んだ。
「私、この瞬間が大好きなの。私の中に男が入ってくる瞬間、私は女なんだって感じるから」
彼女のその言葉に、夫への背徳感は微塵もなかった。そこにあるのは、自らの快楽を何よりも優先し、男を「自分を満たすためのパーツ」として消費する、徹底した自己愛。
ゴム越しに伝わる彼女の膣壁の熱は、確かにとろけるほどに心地よかった。しかし、絶頂を迎えた瞬間に私が感じたのは、勝利の凱歌ではなく、どれほど注ぎ込んでも満たされることのない「底なしの空虚」への、虚しい供物のような感覚だった。
毒を食らう夫、記録する雌:完成された背徳のシステム
ホテルを後にし、日常の殻を被り直して帰路につく。
だが、その夜、オンラインゲームという「裏側の社交場」にログインした私を待っていたのは、かおりからのあまりに無邪気で、凄惨な報告だった。
「俺さん、こんばんは。もらったお菓子、夫に食べさせたら『美味しい、美味しい』って喜んでたよ。ありがとうね」
その言葉の背後に、あの駅で見せた「いたずらが成功した子供のような笑顔」が重なる。
彼女はあの顔を、私との密会の始まりだけでなく、裏切りの果実を夫の喉元へ押し込む瞬間にも浮かべていたのだ。
夫は信じて疑わなかっただろう。愛する妻が、自分のために選んでくれた菓子だと。
まさかその菓子が、ほんの数時間前に妻の身体を蹂躙し、その膣壁に熱を刻み込んだ男からの「供物」であるとは。その光景を想像したとき、私の中に湧き上がったのは、怒りでも嘲笑でもなく、ただただ深い、底知れない「憐れみ」だった。
かおりにとって、不倫はもはや生活の一部、あるいは生存のための「ルーチン」だ。
彼女はこれまでに100人以上の男をその身に受け入れ、その膨大な情報を一冊のノートで管理していた。誰と何を話し、どんな快楽を分かち合ったのか。
一言の綻びも許さず、完璧に「妻」と「雌」を使い分けるその手練手管は、プロの風俗嬢すら凌駕する狂気の執念だ。
私との一度の情事など、彼女の膨大な「記録」の中の、わずか一行に過ぎない。だが、その「一行」の裏で、何も知らぬ夫は今夜も、間男の贈った菓子を味わい、平和な日常を信じ込んでいる。
彼女という「完成された嘘」の前では、夫の存在はあまりに無力で、あまりに滑稽だった。
聖域に沈む泥、あるいは決別の神託
彼女の口から語られる過去は、もはや告白というよりは「故障した記録媒体」の再生に近いものだった。
愛した男を捨て、20歳上の税理士という「富」を簒奪したはずの彼女。だが、その選択が彼女の魂を摩耗させた。
元カレへの腹いせに始まった不倫の連鎖は、いつしか100人を超える男たちの残骸を彼女の膣内へと積み上げ、著名な経営者から名もなきゲーマーまでをノートで一元管理する「狂気の事務作業」へと変貌していたのだ。
使い回された玩具による病の感染、妊娠の恐怖に震えた産婦人科の夜。そんな凄惨な泥濘の中にいながら、彼女の夫は詐欺に遭い、彼女が守ろうとした「金の城」すらも崩壊しかけている。
私は、彼女をその「呪縛」から救い出すつもりなどなかった。ただ、彼女という「雌」を私の毒で上書きし、その歪んだ日常を支配したかっただけだ。
だが、幕引きは唐突に、そして滑稽な形で訪れた。
茨城、大杉神社。
詐欺師との悪縁を切るという名目のもと、私は彼女との濃密な「上書き」の時間を確信していた。しかし、目的地に降り立った私の前に現れたのは、彼女の隣で無邪気に笑う、オンラインゲームの「ギルドメンバー」という名の闖入者だった。
二人きりの情事を期待した私を、彼女は「大勢の中の一人」という無機質なカテゴリーへと突き落としたのだ。
「ああ、この女は、私という存在すらノートの1行として舐め腐っている」
豪華絢爛な社殿を仰ぐまでもない。
あらゆる悪縁を断つと言われるその聖域で、私はただ一人、冷徹な神託を下した。
この泥濘にこれ以上、私の貴重な「毒」を注ぐ価値はない。
100人の男たちが踏み荒らした後の荒野に、私の刻印を残す必要などどこにもなかったのだ。私はその場で、彼女という「空虚な器」との縁を、永遠に断ち切ることに決めた。
彼女は今夜も、完璧な「妻」を演じているだろう。
あなたが今、妻から差し出されて口にしているそのお菓子。それが、ほんの数時間前に彼女の身体を蹂躙した男からの「供物」ではないと言い切れるだろうか。
100人の男をノートで管理し、平然と日常を偽装する彼女の「完成された嘘」を、あなたが見破る術はない。
あなたの隣で微笑む妻。その柔らかな肌の奥に、見知らぬ男たちの残骸が濃密に澱んでいないと言い切れる自信が、あなたにはあるだろうか。


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